2023年10月21日(土)に、WordPressの公式イベント「WordCamp Tokyo 2023」が開催されました。
コロナ禍のために4年ぶりのオフライン開催となった本イベントにて、私、川井昌彦は「環境変化の激しいWordPressのメンテナンスをどう考えるか」のパネルディスカッションのパネラーとして登壇いたしました。
目次
WordCampとは
本コラムをお読みになっているみなさんは「WordPress」という名前を耳にされたことがあると思います。
WordPressはCMS(コンテンツ管理システム)と呼ばれる、ウェブ制作の知識が無くてもウェブサイトを制作・更新することができるシステムです。
世界で最も利用されているCMSで、2023年時点で実に世界のウェブサイトの40%以上がWordPressで構築されているという統計があります。
東美でもお客様のウェブサイト制作にWordPressを使用することが多く、制作実績に掲載されているウェブサイトの70%をWordPressで構築しています。
ちなみに、本ウェブサイトもWordPressで構築されています。
これほどまでに人気のあるWordPressですが、誰が開発しているかをご存じない方も多いのではないでしょうか?
WordPressは特定の企業が開発しているのではなく、世界中のエンジニアによってボランティアで開発されています。
WordPressプロジェクトはコミュニティ「WordPress Meetup」によって支えられており、2023年12月現在、108の国と地域に749のコミュニティがあり、約52万人が参加しています。
WordPress | Meetup Pro
https://www.meetup.com/ja-JP/pro/wordpress/
そしてWordCampは、WordPress Foundation(WordPress 創始者 Matt Mullenweg(マット・マレンウェッグ)によって設立された WordPress 非営利法人)の公式な承認のもとに世界中で開かれている WordPress のイベントです。
WordCampには、WordPressのユーザー、開発者、デザイナー、など多くの方が経験レベルに関係なく参加しています。
WordCamp Japan Portal – WordPress イベント「WordCamp」の日本ポータルサイト
「WordCamp Tokyo 2023」は、コロナの影響を考慮して一般参加人数を300人と(これまでと比較して)小規模での開催となりましたが、4年ぶりに日本国内でオフラインで開催されるとあって日本全国そして海外からも多くの参加希望があり、早期にチケットが売り切れてキャンセル待ちが発生するほどでした。
会場の様子
会場はりんかい線「国際展示場」駅と、ゆりかもめ「東京ビッグサイト」駅の間にある有明セントラルタワーホール&カンファレンスです。
10時に開場、10時30分から開会式が行われ、その後2つのフロアにてセッションがスタートしました。
スポンサーブースではレンタルサーバー・有料テーマプラグイン開発企業・その他関連企業が出展され、プレゼント企画なども行われて非常に活況でした。
セッション「環境変化の激しい WordPress のメンテナンスをどう考えるか」
これまでのWordCampのセッションは、特定の話題についてスピーカーがセミナー形式で話をする形で行われてきました。
しかし今回、すべてのセッションは「セミナー+パネルディスカッション」という形式で行われました。
壇上のスピーカーが一方的に話をするのではなく、複数のパネラーがお互いに意見を交わしつつ、会場の参加者も巻き込んでセッションの話題について考えていこうというコミュニケーションを重視した形式です。
そして13時30分からは、セッションフロア トラックBにて、私がパネラーとして登壇する「環境変化の激しい WordPress のメンテナンスをどう考えるか」がスタートしました。
会場の150席は開始前からほぼ満席の状態です。
- スピーカー・パネラー:遠藤進悟さん
(ウェブ制作サーバー構築などを行うフリーランサー、静岡WordPress Meetupオーガナイザー) - パネラー:小島健司さん
(大手レンタルサーバーで長年にわたるサポート業務を経て、現在は制作会社や代理店のウェブ運用サポートを行うフリーランサー) - パネラー:川井昌彦
(株式会社東美 シニアディレクター) - ファシリテーター:コスギサヤカさん
(ストレングスファインダーを活用したコーチングとウェブ活用のコンサルティングを行う カエルコムニス株式会社 代表取締役、WordCamp Niigata 2019 実行委員長)
WordPressの動作環境の変化とアップデートについて知る
まず、メインスピーカーの遠藤進悟さんよりスライドにてWordPressの動作環境の変化やアップデートについての基礎知識のおさらいをしていただきました。
WordPressは年に3~4回のメジャーアップデートが行われ、推奨動作環境がどんどん変化しています。
アップデートが行われる理由としては「利用者が使いやすい形にする」「未来の機能のための布石」「Web環境・動向に合わせた機能追加」「処理負荷の軽減や処理速度の向上」「セキュリティの問題に対する修正」といったものが挙げられます。
これらをエンドユーザーのために補助していくのがメンテナンスです。
しかし実際には、多くのWordPressはきちんとしたメンテナンスが行われていません。
なぜメンテナンスが行われなくなってしまうのか? メンテナンスについてどう考えていけばいいのか? といったことについて、パネルディスカッションで深掘りしていきます。
WordPressのメンテナンスについて考える
パネルディスカッションの準備の間に、ファシリテーターのコスギさんから会場の参加者がどのような層の方なのかを確認していただきました。
制作歴10年程度のベテランの方も多く、実務経験者に関心が高いテーマであることがわかりました。
「メンテナンスで苦労したこと」
パネルディスカッションの最初の話題は「メンテナンスで苦労したこと」
メンテナンスしづらいサイトとして「10年くらい前に作られたサイト」「他社が作ったきりメンテナンスされていないサイト」というのが挙げられました。
では、なぜメンテナンスしづらいのでしょうか?
実はここ数年でWordPressの機能が大きく変わっており、それに合わせた手法で新規制作されたサイトはかなりメンテナンスしやすくなっています。
それに対し、過去の手法で制作されたサイトは機能強化の恩恵が受けられず、複雑化したウェブ技術の要件を満たすために非常に多くの工数が必要になっています。
他社制作のサイトを引き継いだ際、使用されている有料のテーマ・プラグイン・ライブラリ・フォントなどのライセンスを制作した会社が持ったまま関係が無くなってしまっているというケースも多々あります。
特にオリジナルテーマで作られている場合にこの問題が発生することが多く、新たに契約し直さないとメンテナンスができなくなります。
さらにオリジナルテーマで制作されたサイトは、ウェブサーバー側のアップデートによりエラーになってしまうコードの書き換えをすべて自前で行う必要があり、手に負えないことになっています。
そのため、ひどいケースでは制作を行った会社が「サイトが壊れるのでアップデートしないでください」と言ったり、WordPressのアップデート情報がエンドユーザーの管理画面に出ないようにしていることもあります。
アップデートを行わないとセキュリティ対策が行われないままウェブサイトを運用することになり、ウェブサイト訪問者をも危険にさらすことになります。
サイトの仕様を精査すると公式テーマとプラグインの組み合わせで対応できるケースも多いので、思い切って公式テーマ・プラグインでリニューアルしたほうが良い結果になることが多いです。
「メンテナンスしやすいWordPressとは?」
では、メンテナンスしやすいWordPressはどのように制作すれば良いのでしょうか?
極端に言えば「自分でコードを書かない」のが最もメンテナンスしやすいということになります。
インターネットに接続できるデバイスの数が飛躍的に増え、セキュリティ・アクセシビリティなど現代のウェブサイトに要求される機能は10年前とは比べ物にならないほど多く、制作に必要な知識は指数関数的に増加し続けています。
さらにインターネットの技術進歩は激しく、かつての常識が非常識となり、知識が常に更新されていく世界です。
情報収集だけでも個人では限界にきていると言ってよいでしょう。
制作会社は、オリジナルテーマを使うのであれば「そのコードに脆弱性が含まれていないか?」「WordPressの設計思想や文法に適合しているか?」「サポートが終了したライブラリを使っていないか?」といったことを、制作の時だけでなくそのコードが存在する限り未来永劫チェックし続ける覚悟が必要です。
それが難しいのであれば、「餅は餅屋」ということで信頼できる公式テーマ・公式プラグインを使ったほうが良いでしょう。
また、機能を加えたり仕様を変えたい場合は、自分で改造するのではなく、開発者に要望を出してみることも考えてみます。
自分が欲しい機能は他の方も欲しいと思っていることが多く、意外にこういった要望は通ります。
通らないまでも開発者が要望を満たせる方法を教えてくれることが多いです。
そうなれば上記のチェックは開発者が行ってくれます。
このような制作手法をとることにより、制作会社はエンドユーザーの要望をかなえるためのウェブサイト設計と制作、そして公開後のサポートという、エンドユーザーに寄り添った制作会社にしかできないことに注力できるようになるのです。
「そのサイト、WordPressで作る必要がありますか?」
今はコンテンツが重視される時代。
凝ったデザインはかえってマイナスになることがあります。
新規に制作するのであれば、果たしてオリジナルテーマが必要なのか? そんなカスタマイズが必要なのか? を十分に検討したうえでメンテナンスのしやすさまで考慮した設計を行うことが重要になってきます。
さらに言うなら、本当にWordPressで作る必要があるのかどうかも検討すべきです。
Wix、Studio などウェブ知識不要で安価に素晴らしいサイトが制作できるサービスも増えてきています。
WordPressをベースにした WordPress.com というサービスもあります。
それらと比較したうえで「サーバーインストール型のWordPressを使いたい」という理由があるのか、今一度考え直したほうがいいでしょう。
今回のセッション及びパネルディスカッションの目的は、メンテナンスに対する答えを出すのではなく、WordPressにかかわる人たちがメンテナンスについての意識を常に持っていただけるようになることでした。
ウェブサイト制作、特にCMSを中心としたシステムを構築する場合、公開後のメンテナンスまで考慮しているかは非常に重要です。
WordPressに限らず、ウェブサイト制作というのは公開してからがスタートと弊社は考えています。
セッション及びパネルディスカッションの動画はこちらで公開されていますので、お時間のある時にぜひご覧ください。
閉会式とアフターパーティー
17時30分に、2トラックにわたる7つのセッションとコンテンツエリアでのワークショップが終了しました。
閉会式では、本イベントに関わった実行委員と当日ボランティアスタッフの紹介、スポンサーの紹介、2024年2月に神戸で開催予定の「WordCamp kansai 2024」の告知、そして2024年3月に台湾の台北で行われる「WordCamp Asia 2024」の告知が行われました。
閉会式後は同会場でアフターパーティーが行われ、参加者の業種や技術レベル、経験レベルに関わらず交流が行われました。
WordPressに関わるなら、コミュニティとつながろう
WordPressはインターネットでも書籍でも多くの情報があふれており、独学で制作方法を習得することも難しくはありません。
しかし社会情勢が変わっていくのに伴い、WordPressもどんどん変化しています。
そのような状況では、あふれている情報の多くがすでに時代遅れのものになっています。
古い情報は適用するとかえって脆弱性を生む可能性があります。
また、本来ならやってはいけないカスタマイズ方法を紹介している記事も多く見受けられます。
WordPressを仕事にするのであれば、最新で正しい情報を得ることが必要です。
そのためにはWordPress自体を実際に開発している人と繋がるのが最も確実です。
制作会社を選択される際は、WordPressコミュニティに参加しているかどうかも重要なポイントなのです。
WordPressでご不明なことがございましたら、WordPressコミュニティに参加している東美のスタッフにご相談ください。
記事を書いた人
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シニアディレクター
1990年代からWEB制作を始め、現在でも最新の技術に触れるため勉強会に積極的に足を運んでいる
WEB案件の見積・デザイン・コーディング・保守まですべての工程を手掛けることができ、公開後の運用を見越したディレクションには定評がある
DTPの経験も長く、InDesign,とWEBの連携も得意
WordPress公式カンファレンス・Meetup などでの登壇経験多数
黒柴犬とシロハラインコのパパ
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