なぜカタログの 「電話受発注」は無くならないのか?

デジタルツールが生活のあらゆる場面に浸透し、ECサイトやアプリから数クリックで商品を注文できる時代になりました。
しかし、そんな便利な時代であっても、「カタログを見ながら電話で注文する」という従来のスタイルは、多くの業界で今なお根強く残っています。
FAX注文は以前ほど見かけなくなりましたが、電話となると話は別。むしろ今でも“強い存在感”を放っています。
なぜ電話受発注だけは無くならないのか?
今回は、私自身の体験や現場の声を交えながら、その理由をより深く掘り下げてみます。

“聞けばすぐわかる”という安心感がある

私はITに苦手意識があるわけではありません。むしろ日常ではスマホもアプリも問題なく使います。
それでもカタログに電話番号が載っていると、つい電話してしまうタイプです。
特に最近のカタログはネット注文やフォーム入力へ誘導する設計が増えていますが、それでも“番号を見た瞬間に電話してしまう”のには理由があります。
その最大の理由が 「安心感」 です。
人と話すことで、「ちゃんと相手が理解している」「手続きが正しく進んでいる」という感覚を得られます。顔は見えなくても、声のトーンや反応で状況が伝わってくる――これが電話の強みです。
たとえば次のような質問をするとき、電話は圧倒的に強い。
「在庫って本当にあります?代替品は?」
「この商品、前のと何が違うの?」
「今日中にほしいんですが、最短いつ届きます?」
メールやチャットでは「返事待ち」の時間が発生しますが、電話ならその場で疑問がどんどん解消されていきます。
注文の不安を“即時にゼロにできる”というのは、どんな時代でも価値が失われない機能です。


“ニュアンス”のやり取りができるのは電話の圧勝


オンライン注文は便利ですが、細かいニュアンスを伝えるのは決して得意ではありません。
特にBtoBでは「あれ」「それ」「前回と同じ感じで」といった曖昧表現が、実はよく使われます。
「前回と “だいたい” 同じでいいです」
「カタログの●ページ、左上の写真のやつ」
「青いパッケージのほうで、ちょっと硬い素材のやつ」
これらをフォームの選択肢に落とし込むのはほぼ不可能。
オンラインでは、“言語化しづらい微妙な差”を伝えきれないことが多いのです。
しかし、電話なら会話の流れの中で、
「つまり ●● のほうですか?」「それなら ×× のほうが近いですよ」と互いに確認しあいながら注文を組み立てることができます。
さらに、電話だと“カタログという共通の視覚情報”が双方にあるため、
口頭だけでも高い精度で意思疎通ができる。
「ユーザーの曖昧なイメージを確実に商品へ変換できる」という点で、電話は今も現役最強のツールなのです。

大量注文や特殊ケースに対応できる柔軟性

飲食店や工務店、卸売店、イベント業界など、BtoBの現場では“その日その時の状況”が非常に重要です。
そして、その状況は毎日変わります。
たとえば…
「今日中にあと50個必要になった」
「使っていた型番が廃番で、急いで代替品を探したい」
「大量に買ったら値段はどうなる?納期は調整できる?」
「今使っている商品と、新商品で何が違うか教えてほしい」
こういったケースは、オンラインだけでは解決できないことが多い。
現場に合わせて柔軟に調整する必要があるため、
“相談しながら最適なプランを探す” という人間的プロセスが不可欠なのです。
電話は単なる受注手段ではなく、
“状況を理解しながら最適化してくれる相棒”
として機能しています。
だからこそ、業務が複雑になればなるほど、電話の価値はむしろ高まるのです。

カタログ×電話は“最高の組み合わせ”

紙のカタログは、やはり“一覧性の鬼”です。
情報量が多くてもパッと見て比較でき、どんな商品があるかすぐ掴める。
一方、電話はコミュニケーション能力が圧倒的。
この2つはまさに補完関係であり、競合関係ではありません。
カタログで仕様・価格・バリエーションを確認
気になる点を電話で質問
そのまま注文手続きまでスムーズに移行
という流れは、人間の行動としてとても自然です。
しかも、紙カタログは“現場に置いておける”ため、作業しながらすぐ確認できる。
これはデジタルだけでは代替しにくい利点です。
カタログと電話は、今も“現場で一番頼れる組み合わせ”と言っても過言ではありません。

デジタルが進んでも、電話が完全に消える未来は遠い

今後、オンライン注文の利用率は確実に増えていくでしょう。
しかし、電話が完全になくなる未来はまだまだ見えません。
特にBtoBの世界では、次の点が非常に重要だからです。
早く知りたい(最短で結論に辿り着きたい)
正確に伝えたい(ニュアンスを含めて)
相談しながら決めたい(商品選びに安心感が欲しい)
これらのニーズは、AIやECが発達しても“完全に代替されにくい領域”です。
むしろ、デジタル化が進むほど“人と話す価値”は相対的に上がっていくとも言えます。
カタログと電話は、これからも現場の心強い味方であり続けるでしょう。

まとめ

電話には“安心感”“即解決力”“コミュニケーションの柔軟性”がある
カタログと電話を組み合わせることで、注文の精度とスピードが大幅に向上
BtoBではニュアンスや現場事情を反映した注文が多く、電話が不可欠
デジタル化が進んでも、電話受発注は“なくならない文化”として生き続ける
紙のカタログや電話は、決して古い手段ではありません。
人間の行動や心理に寄り添った“最適なコミュニケーション手段”として、今もなお、多くの現場で必要とされています。

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記事を書いた人

岸川誠
岸川誠
カタログ・パンフレット・Web制作など、さまざまなクリエイティブを通して、企業の課題を可視化し、解決に導く伴走型の支援を行っています。単なる制作会社ではなく、課題を共有し、成果をともに生み出すパートナーであり続けることを目指しています。